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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)2号 判決

アメリカ合衆国 デラウェア州 19801 ウィルミントンノースマーケットストリート 1105番地

原告

ランコ インコーポレーテッド

同代表者

エドワード ジェイ ジョーンズ

同訴訟代理人弁理士

小林孝次

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

高野清

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間として90日を定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和62年審判第14400号事件について平成4年7月29日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続

原告は、昭和60年9月5日、別紙1の構成からなり、商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの、以下同じ。)別表17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(昭和60年商標登録願第91262号)をしたところ、昭和62年3月25日、拒絶査定を受けたので、同年8月6日、審判の請求をし、同年審判第11400号事件として審理され、平成4年7月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(出訴期間として90日を附加)があり、その謄本は、同年9月7日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

本願商標は、「LANE BRYANT」の欧文字を横書きしてなり(別紙1参照)、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、昭和60年9月5日登録出願されたものである。

一方、登録第1865374号商標(以下「引用商標」という。)は、「LENPLIANT」の欧文字と「レンプライアント」の片仮名文字を横書きにて2段に表してなり(別紙2参照)、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、昭和59年5月22日登録出願、昭和61年5月30日設定登録がされたものである。

本願商標は、「LANE BRYANT」の欧文字よりなるものであり、特定の語義を有しない一種の造語よりなるものと認められ、該欧文字に相応して「レインブライアント」の称呼を生ずるものであるが、その構成中の「LANE」の欧文字は、「小道、コース、レーン」の語義を有する英語として一般に知られ、親しまれているもので、その発音記号は〔lein〕で表されていることからも分かるように、連母音の発音にあっては、長母音に変化しやすいものであるから、該欧文字は、「レーン」と発音される場合が決して少なくないものというのを相当とし、本願商標は、該構成文字に相応して、「レーンブライアント」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。

他方、引用商標は、「LENPLIANT」、「レンプライアント」の構成文字よりなり、特定の語義を有しない一種の造語と認められ、該構成文字に相応して「レンプライアント」の称呼を生ずることは明らかである。

そこで、本願商標より生ずる「レーンブライアント」の称呼と引用商標より生ずる「レンプライアント」の称呼とを比較すると、両者は、その構成音数において比較的冗長な8音構成よりなり(前者は長音を伴う。)、両者の相違は、語頭音における長音の有無と称呼識別上印象の弱い第3音目という中間音において「ブ」と「プ」の音にその相違を有するものであるが、長音は前者の母音に吸収されて聴取され難い音となるものであり、長音の有無は微差というべきものであって、また、中間音における「ブ」と「プ」の音は、濁音と半濁音の差にすぎない近似した音であるから、これら相違音の差が、両称呼全体をそれぞれ一連に称呼するときは、その及ぼす影響は小さく、両称呼の語感、語調が近似し、聴者をして、互いに紛れるおそれがあるものといわざるを得ない。

なお、原告は、引用商標の称呼は「レンプ」と「ライアント」に分けられ、「レ」と「プ」音に強勢がおかれるとか、本願商標は男子の氏名であるとか主張するが、その主張を認め得る証左はないものであり、その主張は採用し得ない。

したがって、本願商標と引用商標とは、あらためて、その外観、観念について言及するまでもなく、称呼上類似の商標であり、かつ、指定商品を同一にするものであるから、結局、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、登録を受けることができない。

3  審決の取消事由

審決の本願商標及び引用商標の構成及び指定商品の認定は認めるが、審決は、本願商標から生ずる称呼の認定若しくはその称呼と引用商標から生ずる称呼との類否の判断を誤り、又は本願商標と引用商標とが外観及び観念において著しく相違することを看過し、もって本願商標と引用商標とが類似すると誤って判断したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由(1)一称呼の類否の判断の誤り

審決は、本願商標から「レーンブライアント」の称呼をも生ずると認定しているが、これは誤りである。

審決は、「LANE」の発音記号は〔lein〕で表されているが、その連母音は長母音に変化しやすいので、「レーン」と発音されることも少なくないとして、本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずると認定している。

しかし、連母音が長母音に変化するか否かは、その単語が実際に使用されている現実社会の実態に則して判断されるべきものであり、〔ei〕の発音記号で表される連母音が当然に長母音に転化するということにはならない。そして、「LANE」は、ビートルズのヒット曲「Penny Lane」が「ペニー・レイン」として広く知られているように、「レイン」の称呼を生じる単語として広く親しまれている。

被告は、外来語辞典においては「lane」は「レーン」の見出し語の項に記載されているとして、乙第4号証等を提出するが、甲第2号証(あらかわそおべえ著「外来語辞典第2版」角川書店1981年9月10日発行)に、見出し語の表記について、「原音における二重母音の〔ei〕、〔ou〕はおおむね長音とみなした。」と記載されているように、外来語辞典の見出し語の表記は、検索の便宜のためであり、現実にされている発音を正確に表したものではない。

むしろ、甲第3号証(NHK編「日本語発音アクセント辞典改訂新版」日本放送協会昭和60年9月20日発行)の132頁には、「外来語系統(地人名を含む)の『エイ・ケイ・セイ・・・』は、自然の発音でも、なるべく長音としない。」と記載されていることからしても、男子の人名であることが明らかな本願商標の「LANE BRYANT」の「「LANE」は「レイン」とのみ称呼され、「レーン」と称呼されるものではない。

したがって、本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずるとした審決の認定は誤りである。

以上のように、本願商標からは「レインブライアント」の称呼が生ずるものであるが、これと引用商標から生ずる称呼である「レンプライアント」とは類似しない。

日本語(標準語)のアクセントの法則の一つとして、どこが新しい単語の始まりかを明らかにするということから、第1拍が「高」なら第2拍は「低」、第1拍が「低」なら第2拍は必ず「高」というものがある(甲第3号証)。

この法則によれば、本願商標は「LANE」と「BRYANT」の2語からなっているから、(下線部分はアクセントの置かれる部分を示す。)「レインブライアント」又は「レインブライアント」と2箇所にアクセントが置かれるのに対し、引用商標は、「レンプライアント」又は「レンプライアント」と1箇所にアクセントが置かれ、両称呼のアクセントの位置は異なるものである。

そして、本願商標は2語からなるので、「レイン」と「ブライアント」の間に小休止が置かれるが、引用商標は1語であるから、称呼において途切れるところがない。

以上のことからすると、本願商標の「レインブライアント」と引用商標の「レンプライアント」とを一連に称呼するとき、その語感、語調は明らかに相違し、聴者はそれらを明瞭に聴別することができ、相紛れるところはないものである。

(2)  取消事由(2)-外観及び観念の相違の看過

審決は、本願商標と引用商標とは、外観、観念について言及するまでもなく、称呼上類似の商標であるとして、両商標が類似する旨判断するが、仮に、前(1)の主張が理由がなく、両商標の称呼が類似するとしても、本願商標と引用商標とが類似するとした審決の判断は誤りである。

本願商標と引用商標とは、その外観において一見して直ちにその差異が明らかである程度に相違している。

そして、観念においても、引用商標は特定の語義を有しない一種の造語であり、そこから特定の観念を導き出すことはできないものである。本願商標は、男子の人名からなるものであるが、そこからいかなる観念を導くものであるとしても、引用商標が特定の観念を有しないものである以上、両者は観念において同一でも類似でもない。

以上のとおり、本願商標と引用商標とは、仮に、称呼において明確に聴別できないとしても、外観及び観念において明らかに相違するものである。

商標の類否の判断は、同一又は類似の商品に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきものである。

したがって、称呼において類似するからといって直ちに商標が類似するということにはならないものであり、前記のように両商標は、外観及び観念において明らかに相違するのであるから、全体的に観察すれば、両商標は相紛らわしいということを得ないものである。

被告は、両商標は、特に外観、観念上の特徴から取引者、需要者に印象、記憶、連想されるものとは言い難く、両商標により生ずる称呼によって取引されることが少なくないと主張する。

しかし、洋服等、17類の商品は、一部に僅かの例外があるにせよ、いわゆる趣味品の最たるものであり、それを身につける購買者の趣味に合致することが必須である。このような商品にあっては、取引者は勿論、一般消費者は他人任せにせず、直接店頭に赴き、商品を自ら手にとって子細に検討吟味するのがむしろ常態であり、口頭取引は例外である。かかる事実に鑑みると、本件指定商品にあっては、商標の類否を判断する場合の中心は、称呼よりも外観に移っているとするのが妥当である。そして、記憶や連想は多く観念に係わるものであるから、商標の類否を判断する観点は外観及び観念にこそ重点が置かれるべきであり、称呼にはそれほど重要性がないというべきであり、被告の主張は失当である。

以上のことからして、本願商標と引用商標とは類似する商標ではなく、これを類似するとした審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1及び2は認める。

2  同3は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法は存しない。

(1)  取消事由(1)について

原告は、先ず、本願商標からは「レインブライアント」の称呼のみ生ずるとして、本願商標から「レーンブライアント」の称呼をも生ずるとした審決の判断の誤りを主張する。

本願商標の「LANE」の欧文字部分は発音記号を〔lein〕で表されるものであるが、我が国においてこれに接する者が発音記号のとおりに称呼するものとは認められず、連母音〔ei〕が長母音化されることは、日常経験するところである。

外来語辞典(乙第4号証、第5号証)においても、「lane」(小道)の語は「レーン」と表記されている。

したがって、本願商標の「LANE」が「レイン」の称呼のみ生ずる単語として親しまれている旨の原告の主張は失当であり、この語は、実際の使用においては、連母音が長母音化して「レーン」と称呼されるものとみるべきである。

よって、本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずるとした審決の認定に誤りはない。

次に、原告は、本願商標から生ずる「レインブライアント」の称呼と引用商標から生ずる「レンプライアント」の称呼は、アクセント等の相違から称呼上類似しない旨主張する。

原告は日本語の標準語のアクセントの法則から本願商標と引用商標の各称呼のアクセントの相違をいうが、日本語の共通語のアクセントが本願商標や引用商標のような造語に必ずしも当てはまるものではない。

審決は、本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずると認定したものであるが、本願商標が2語からなるからといって必ず小休止が置かれるとはいえず、また仮に小休止が置かれて発音されたとしても、全体的には一息一連に称呼されるものとみるべきである。そして、本願商標の「レーンブライアント」と引用商標から生ずる称呼である「レンプライアント」とをそれぞれ一連に称呼したとき、その語感、語調が近似したものとなり、彼此相紛れるおそれがあることは審決が説示しているとおりであり、審決の判断に誤りはない。

(2)  取消事由(2)について

原告は、本願商標と引用商標とが称呼において類似するとしても、両者は外観及び観念を異にするものであり、また、称呼には重要性がないとして、両者は非類似の商標である旨主張する。

しかし、本願商標及び引用商標とも文字により構成されているものであり、称呼されることを前提とした商標である。

また、本願商標と引用商標の指定商品は、「洋服、コート、セーター、ワイシャツ、ブラウス、シャツ、パンツ、ねまき、パジャマ、ネクタイ、くつした、エプロン、手袋、ハンカチ、タオル、ふろしき、ふとん、まくら」等日常生活において老若男女が使用するもので、広く一般消費者を対象とする比較的安価なものであって、店頭において口頭で取引されたり、電話等により取引されるのが通常の形態である。

そして、本件のように観念を有しない造語の文字商標にあっては、構成文字に相応して生ずる称呼により記憶されるものである。

一般消費者が最初に商品を購入する場合には、原告主張のような取引がされることがあることを必ずしも否定するものではないが、次回以降の購入の際には、店頭又は電話で口頭により取引がされることが決して少なくはなく、その際には称呼による取引が重要な役割を果たすというべきである。

そして、両商標は称呼において類似する以上、同一又は類似する商品について使用されたときは、その商品の出所について混同を生ずる恐れがあるものといわなければならない。

したがって、両商標が類似する商標であるとした審決の判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告の主張する審決の取消事由について検討する。

1  取消事由(1)について

原告は、本願商標を構成する「LANE〔lein〕」の欧文字は、「レイン」の称呼を生ずる単語として広く親しまれており、「レーン」と称呼されるものではないとして、審決が本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずると判断したことの誤りを主張する。

審決が説示しているように、〔ei〕などの発音記号で表される連母音が長母音に変化しやすいこと自体は当裁判所に顕著な事実である(原告もこのこと自体を否定するものではない。)が、「雨」を意味する語として我が国に定着している英語の「rain〔rein〕」は、その連母音が長母音化することなく、一般に「レイン」と発音されている(このことは当裁判所に顕著である。)ように、我が国において外来語となった連母音を含む外国語の単語が現実にどの様に発音されるかについては、その語の現実の使用の実態に則して判断すべきことは、原告の主張するとおりである。

もっとも、原告は、ビートルズのヒット曲名から「lane」が「レーン」ではなく「レイン」として称呼される語として知られている旨主張するが、「小道、コース、進路」等を意味する英語である「lane」は我が国において外来語として広く用いられている(このことも当裁判所に顕著な事実である。)のであり、仮に、原告の主張するように、単なる音楽の一分野において「レイン」と発音されることがあったとしても、これをもって、「lane」の語が本願商標及び引用商標の指定商品の取引者、需要者の各層においてそのように称呼する語として定着していると認めることができないことは明らかである。

そして、成立に争いのない乙第4号証、第5号証及び第7号証によれば、「lane」の語は、あらかわそうべえ著「外来語辞典第2版」(角川書店1987年11月30日発行)(乙第4号証)、三省堂編修所編「コンサイス外来語辞典」(株式会社三省堂昭和48年2月10日発行)(乙第5号証)及び日本放送協会編「日本語発音アクセント辞典改訂新版」(日本放送出版協会平成3年11月10日発行)(乙第7号証)のいずれにも「レーン」の見出し語の項に記載されていることが認められる。

これに関して、原告は、あらかわそうべえ著の前記辞典には、見出し語の表記においては、「国語審議会報告の「外来語の表記」を基準とし、原音における二重母音の[ei][ou]は概ね長音とみなした」と記載されているように、外来語辞典における表示方法は単なる立項及び辞書を引く上の便宜を目的とした人為的取決めにすぎず、発音の実態を表したものではない旨主張する。

しかし、成立に争いのない甲2号証(これは、乙第4号証の外来語辞典の1981年9月10日発行版のものである。)によれば、前記辞典の「凡例」の「(4)見出し語の表記」の項には、「文献にあらわれた形を尊重したが、基本の形をきめるにあたっては、1954年(昭和29年)3月国語審議会報告の『外来語の表記』を基準とした。」と記載されていることが認められるのであり、同辞典において見出し語の表記は、現実に使用されている表記方法をとるのが原則とされていることを認めることができる。そして、このような辞典において、外来語の検索の便宜のためには、現実に使用されている発音に可能な限り近づけて見出し語の表記をすることが要求されることからすると、前記各辞典の見出し語の表記を現実の発音を正確に表したものではないとすることはできない。

そして、前述のとおり、「rain」は「レイン」として我が国において定着しているが、「r」と「l」の発音を区別することのない我が国において、「レイン」と発音すれば、聴者は「rain」と取るのが一般であり、「lane」を想起することは稀であると認められる。即ち、「レイン」は「rain」を意味する外来語として定着しているのである。

これに対し、ボーリング場等において多く使用される「lane」については、前記各外来語辞典のとおり、「レーン」と表記され、また「レーン」と発音されるのが通常であり、これを「レイン」と表記、発音することは、仮にあるとしても、極めて稀なことであると認められる。

すなわち、本願商標の「LANE」は、正しい英語の発音としては、「レイン」と発音するものであるが、本願商標を称呼する取引者、需要者が、必ずしも正しい英語としての発音をもってこれを称呼するとは限らず、前述のとおり、連母音が長母音に変化しやすいこともあって、通常これを「レーン」と称呼しているというべきである。

したがって、審決が本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずると認定したことに誤りはないというべきである。

次に、原告は、本願商標から生ずる称呼と引用商標から生ずる称呼とはアクセント等の相違から語感、語調において異なっており、称呼において類似しない旨主張する。

もっとも、原告は、本願商標から生ずる「レインブライアント」の称呼と引用商標から生ずる「レンプライアント」の称呼とを対比してその類否を論じているが、本願商標からは「レーンブライアント」の称呼をも生ずるとした審決の認定が正当である以上、本願商標から生ずるもう一方の称呼である「レインブライアント」と引用商標から生ずる「レンプライアント」の称呼との語感、語調を比較すること自体意味をなさないものである。

そして、仮に、原告の主張が本願商標の「レーンブライアント」の称呼についていうものであるとしても、本願商標から生ずる「レーンブライアント」の称呼と引用商標から生ずる「レンプライアント」の称呼がアクセントの相違等から語感、語調を異にし、聴者が明瞭に聴別し得るものということはできない。

本願商標が原告の主張するように男子の氏名を表したものであるか否かはさておき、仮にそうであるとしても、我が国において、取引者、需要者が当然にそのよう理解するとは限らず、単なる造語と受け取ることもあり得るものである。

さらに、原告は、日本語(標準語)のアクセントには法則があり、その法則からすると、「レーン(レイン)ブライアント」と「レンプライアント」とはアクセントの置き方が異なる旨主張するが、欧文字をもって表された外国人の人名らしき表示あるいは造語について、その主張する日本語(標準語)のアクセントの法則が当然に妥当するとは考えられない。

実際、我が国において、取引者、需要者が商標に用いられた欧文字をもって表された外国人の人名らしき表示あるいは造語を称呼するときは、自分が知っている類似の語のアクセントに倣う等して、適宜に発音するものと認められる。したがって、本件の場合、両商標が原告主張のように異なったアクセントをもって発音されることのあることは否定できないが、また、例えば、本願商標は「レ」と「ラ」に、引用商標においても「レ」と「ラ」にアクセントが置かれ、似たようなアクセントの置き方により発音されることも少なからずあるものと認められる。

また、本願商標は「LANE」と「BRYANT」の2語から構成されているが、「レーン」と「ブライアント」との間に小休止を入れて称呼するとは限らず、また仮に小休止を入れて称呼しても聴者がそれを聴別し得るとも限らない。

以上のとおり、本願商標から生ずる「レーンブライアント」の称呼と引用商標から生ずる「レンプライアント」の称呼の類否を判断するに当たり、前記アクセント及び小休止の点は、両称呼の語感、語調に影響する重要な差異として表れるものではない。

そして、審決が正当に判断しているとおり、本願商標より生ずる「レーンブライアント」の称呼と引用商標より生ずる「レンプライアント」の称呼とはその構成音数において比較的冗長な8音構成よりなり(前者は長音を伴う。)、両者の相違は、語頭音における長音の有無と称呼識別上印象の弱い第3音目という中間音において「ブ」と「プ」の音にその相違を有するものであるが、長音は前者の母音に吸収されて聴取され難い音となるので長音の有無は微差というべきものであり、また、中間音における「ブ」と「プ」の音は、濁音と半濁音の差にすぎない近似した音であるから、これら相違音の差が、両称呼全体をそれぞれ一連に称呼するときは、その及ぼす影響は小さく、両称呼の語感、語調が近似し、聴者をして、互いに紛れさせるおそれがあるというべきである。

したがって、本願商標と引用商標とは称呼において類似するものというべきであり、審決のこの点についての判断に誤りはない。

2  取消事由(2)について

原告は、仮に本願商標と引用商標とが称呼において類似するとしても、両商標は、外観及び観念を異にするので、商標として類似しない旨主張する。

本願商標と引用商標とが外観において相違することは明白であり、また、観念についても、引用商標は造語と認められるから特定の観念はなく、本願商標を男子の氏名とみようと、造語とみようと、引用商標とは観念を同じくするものでもない。

そして、原告の主張するように、17類に属する指定商品のうち、洋服等の高級な趣味品にあっては、購入の是否を決定するにあたっては、購入者が実際に商品にあたって検討し、その際、商標を外観をもって確認するという場合のあることは否定できないし、また、今日、電話ファックス等の新しい通信手段が発達してきたことを考えると、商標の類否の判断において、商標の外観がより重要性を増してきたことは否定できないところである。

しかし、本願商標及び引用商標の指定商品には、洋服等の高級な趣味品の他、ハンカチ、ふろしき、ふとん、まくら等種々のものがあり、その取引の形態は製造者から卸問屋(一次、二次等)との取引や末端の店頭における一般消費者による購入等種々の形態があるものであり、そのうち、特に問屋が絡む取引においては、隔地者において電話などにより注文がされて取引が行われるという例も少なくはないと認められる。そして、両商標とも文字からなる商標であり、称呼されることが前提とされているものであるから、電話等による口頭取引においては商標の称呼をもって商品を特定することになるのであり、商標の類否の判断における称呼の役割をいまだ軽視することはできないものである。

そして、本願商標や引用商標の現実の使用形態に関し、これらについてはその称呼に重要性はなく、それが類似であるにもかかわらず、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないとする特別な事情のあることを認めることのできる証拠はない。

したがって、外観及び観念の相違をもって本願商標と引用商標とが非類似の商標であるとして、審決の両商標が類似するとの判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。

3  以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張は理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間を定めることにつき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

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